「金融庁への登録」とは
投資顧問は、誰でも自由に行えるわけではありません。政府に申請書を提出し、登録を受ける必要があります。提出先は、全国の地域ごとにある「財務局」です。財務局とは、国(財務省)の地方機関で、金融機関などの監督を行っています。
申請方法
金融商品取引業になりたい企業または個人事業者は、財務局に申請書類を直接持ち込むか、郵送で送ります。申請が認められたら、登録されます。以上の手続きは、法律(金融商品取引法)で定められています。
業者登録簿
金融庁の登録が完了すると、「商号」「登録年月日」などが記録されます。この記録される名簿を「金融商品取引業者登録簿」といいます。登録簿は誰でも閲覧できる状態に置かれます。これを「公衆縦覧」といいます。名簿に掲載される金融商品取引業には、投資顧問以外の業者(証券会社、投資信託、投資ファンドなど)も含まれます。
登録が認められるための条件
投資顧問として登録が認められるには、「登録拒否事由」がないことが絶対条件です。拒否事由とは、ずばり、過去に「法律違反(罰金)」「登録取消」などの前歴の有無です。悪い前歴があると、即アウトになります。
過去5年以内の違反歴の有無
具体的には、以下が登録却下の理由になります。
(1) | 金融商品取引業の登録を取り消されてから5年が経過していない。 |
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(2) | 金融商品取引法等に違反して罰金刑を科されてから5年を経過していない。 |
登録段階での不正チェックの限界
投資顧問の登録は、条件や書類に不備がなければ基本的に認められます。このため、良い業者も悪い業者も見分けがつかない状態に陥りがちです。申請の際の書類確認や、毎年提出が義務づけられている事業報告書をチェックする担当者は限られています。登録業者の6~7割が集中する関東財務局であっても、担当者は数人しかいません。申請書類の不備などを確認するだけで手いっぱいで、虚偽などの不正を見抜くのは難しいといいます。
登録後に「検査」も
このため、証券取引等監視委員会は、登録初期の段階で、投資顧問業者の運営体制を検査することがあります。投資家からの通報を待って検査を始める姿勢だと、被害拡大を防げない場合があるからです。検査で重大な不正が見つかれば、登録直後でも金融庁を通じて取り消し処分を検討します。
重大な不正には処分勧告
検査では、監視委や各財務局の検査官が、登録直後に会社を訪れて書類を確認したり、代表者を聴取したりします。それによって、投資先に実態があるかどうかなどをチェックします。登録直後の段階で不備が見つかれば、随時報告を求めて指導します。監視委は、出資金の流用など重大な不正が見つかった場合は金融庁への処分勧告を行い、早期に詐欺的な業者を排除するべく、日々業務に取り組んでいます。
登録業者かどうか確認する
消費者サイドとしては、投資顧問と取引をする際に必ず「登録業者」であることを確認しましょう。登録業者かどうかは、金融庁や日本証券業協会で確かめられます。
「第一種」だけの拒否事由
一方、金融商品取引業者には、投資顧問以外にも証券会社や投資信託会社などがあります。 このうち、証券会社や金融先物取引業者は「第一種金融商品取引業」という種類に区分されています。 この第一種金融商品取引業については、資格を得るにあたって、より厳しい条件が課されています。 具体的には「財務」と「主要株主」についての規制です。
(1)財務の規制
資本金や純資産
まず、第一種金融商品取引業の登録が認められるためには、財務状況がある程度強固でなければなりません。具体的な条件として、資本金や純資産額が政令で定める一定の金額を上回る必要があります。
自己資本比率
また、自己資本規制比率が120%を下回る場合は、第一種金融商品取引業の登録ができません。自己資本規制比率の算出方法は以下の通りです。
毎月末に届け出
第一種金融商品取引業者は、自己資本規制比率を算出して、毎月末に金融庁に報告しなければなりません。金融庁は、自己資本規制比率が120%を下回ると、財産の供託などを命じることができます。
業務停止命令
自己資本規制比率が100%を下回ると、金融庁は、業務停止命令を出すことができます。状況が回復する見込みがなければ、登録を取り消すこともできます。
(2)主要株主に関する規制
主要株主とは、議決権の20%以上を握っている株主のことです。個人または法人です。 第一種金融商品取引業の主要株主は、議決権保有割合などの事項を記載した届出書を金融庁に提出しなければなりません。 この届出書には、金融商品取引業の登録拒否事由に該当しないことを誓約する書面などを添付することが必須になります。
「アセット・マネジャー」との違い
投資顧問と似たような言葉に、「アセット・マネジャー(資産運用者)」があります。 アセット・マネジャーとは、投資家からお金を集めて運用する人です。 投資顧問(アセット・アドバイザー)は助言を行うだけで、運用はあくまで顧客が自分で行います。 これに対して、マネジャーは顧客の投資を代行します。
お金を預かって運用する「一任業者」
金融商品取引業では、運用を代行するアセット・マネジャーを「一任業者」と呼んでいます。 この一任業者の業務を行うためには、投資顧問よりも厳しい規制が課されます。登録だけでなく、「認可」が必要になります。 つまり、投資顧問(助言業者)として登録するだけでは、運用代行をやってはいけないということです。
肩書き | 投資顧問 | アセット・マネジャー |
---|---|---|
別の呼称 | ファイナンシャル・アドバイザー | 資産運用者 |
法律上の位置づけ | 助言のみを行う業者 | 一任業者 |
必要な資格 | 金融庁への登録 | 金融庁からの認可 |
ファイナンシャル・プランナー(FP)の資格は必須ではない
投資顧問で働く人の多くが、ファイナンシャル・プランナー(FP)の資格を保有しています。 しかし、FPの資格は必須ではありません。
相談役(コンサルタント)や助言者(アドバイザー)としての基礎知識
FPの資格を取得する過程で、様々な知識を身に着けることができます。投資や金融に関する広範かつ基礎的な知識です。この知識は、投資顧問において相談役(コンサルタント)や助言者(アドバイザー)の業務を行ううえで、役に立つはずです。 とりわけ投資のポートフォリオのバランスを考えたり、リスクを説明したりするうえで、メリットが大きいです。 とはいえ、FPの資格がなければ投資顧問として失格ということではありません。FP試験に合格していなくても、知識や経験が豊富な人は大勢います。大切なのは、「実践」でどれだけ有益な助言ができるかです。
FPの人数
資格の種類 | 日本FP協会 | 金融財政事情研究会※ |
---|---|---|
CFP・1級技能士 | 2万2325 | 2万1835 |
AFP・2級技能士 | 16万445 | 59万732 |
3級技能士 | - | 90万3285 |
計 | 18万2770 | 137万8850 |
※2002年~2019年前期までの資格合計者
出典:「資産形成の王道」 小林治行著
データ元:日本FP協会 金融財政事情研究会
投資顧問を選ぶ際のポイント
投資顧問は登録をすれば業務を行うことができます。 未登録の投資投資顧問は問題外だとして、正規の投資顧問の中から、私たち投資家はどの業者を選ぶべきなのでしょうか。
チェックポイント | |
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(1) | 基本ポリシー |
(2) | リスクを考慮した助言ができるか |
(1)基本ポリシー
投資顧問会社の助言には、各社の相場観や投資哲学(ポリシー)が反映されます。 とりわけ、評価の高い投資顧問会社は、一貫した裏付けのある理論に基づく投資助言を行っている場合が多いです。 同じくらい高評価を得ている投資顧問でも、基本ポートフォリオなどの面で全く逆の考えを採用している例もあります。 しかし、自らのポリシーに忠実であるという傾向は似通っています。 個人投資家が投資顧問を選ぶ際には、しっかりとした投資哲学があるかどうか、事前にチェックすることが大切です。
それぞれの尺度
釣り名人たちは、 自分しか知らない必ず釣れる秘密の場所を持っています。 これと同じように、 優れた投資顧問も、 自分なりの尺度を持っています。
事例:ストックジャパン
例えば。株式会社ストックジャパン(有宗良治社長、東京)が運営する「スナップアップ投資顧問」は、独自の哲学として「サイエンス株投資術」を掲げています。 このサイエンス株投資術は、日経平均などの相場全体の値動きに関係なく、堅実に利益を出すことに適していると評価されています。 つまり、足元の相場や他人の動きに惑わされることなく、 科学的かつ経験的に導き出されたポリシーに従って推奨銘柄を選ぶのが、ストックジャパンの特徴だとされます。
右往左往しない
株投資で富を築き上げるための最善の方法の一つは、 急成長を遂げている企業の株式に投資することでしょう。 しかし、それを実行に移す際には、 経済やその企業の将来をある程度信じなければなりません。 市況が悪い時に右往左往してしまうのは、かえって危険です。 その点、スナップアップ投資顧問の有宗良治代表は、頑固にポリシーを貫くことで有名です。
(2)リスクを考慮した助言ができるか
また、株投資は、 価格変動により、 損失を被るとこもあります。 投資した企業の業績が順調であっても、金融政策や地政学的なリスク増大などにより、 全体の相場が一気に下落することもあります。 そのような場合にいかに損失を抑えるような助言ができるかという点も、 投資顧問を選ぶ際のポイントです。
海外の有名な投資顧問から学ぶ
日本で「投資顧問」という業態が広まり始めたのは1980年代の半ば以降です。 米国と比べると、歴史が浅いです。 米国では一般個人も、投資顧問に頼って資産運用を行う場合が多いです。 一つの慣習として定着しています。 このため、優れた実績を備えた投資顧問が多数存在しています。 これらの米国の投資顧問の多くは日本で資格を持っておらず、私たち日本人が利用することはできません。 しかし、米国の業者の実態を把握することで、日本における投資顧問選びの参考にすることは可能です。
米ブランデス・インベストメント
アメリカの投資顧問ブランデス・インベストメント・パートナーズは、国際分散投資では世界でトップクラスの実績で知られています。 ブランデスの基本的な手法は「バリュー投資」です。
創業者チャールズ・ブランデス
米ブランデスの創業者チャールズ・ブランデスは、「バリュー投資の父」として有名なベンジャミン・グラハムから直接指導を受けました。 グラハムの著書「賢明な投資家」「証券分析」は、 投資家にとって有名なバイブルです。
1998年の世界同時株安下の緊急レポート
ブランデスが一躍脚光を浴びたのは、1998年です。世界同時株安を受け「長期スタンスに立った割安株への投資チャンス到来」という緊急リポートを発表したのです。
緊急リポートでは、当時の世界同時株安は「深刻な政治リスク、経済的リスク、為替リスクに直面している」としながらも、「ファンダメンタルズよりも感情(不安心理)に振り回されている」と指摘。
そのうえで、「経済は周期的に動いており3~5年後にはアジアなどのエマージング・マーケットは混乱を切り抜け再び経済成長軌道に乗る」として、ここでの長期的な観点での投資が有効であると主張しました。銘柄選別の決め手は、「財務内容」だとしました。
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投資顧問とは
投資顧問とは、個人や機関投資家に対して、資産を効果的に運用するための助言やサービスを提供する専門家です。投資家の特定の目標やリスク許容度に基づいて、適切な投資戦略やポートフォリオを作成するのに役立ちます。
投資顧問の主な役割は、市場状況や投資商品の分析、リサーチを行い、クライアントに適切な投資アドバイスを提供することです。投資家の目標やリスク許容度に合わせて、資産クラスの選択、ポートフォリオの構築、資金配分、リバランスなどの戦略を立案します。
投資顧問は、投資家の利益を最大化することを目指し、専門的な知識や経験を活かして投資機会を特定し、適切なタイミングで取引を行うことが求められます。市場の動向やトレンドを分析し、ポートフォリオのパフォーマンスをモニタリングすることで、投資家の資産を最適化する努力をします。
投資顧問は、一般的には金融機関や投資会社に所属している場合があります。投資家と直接対話し、クライアントの個別のニーズや目標に合わせたカスタマイズされたアドバイスを提供します。また、一部の投資顧問は、特定の投資商品や戦略に特化してサービスを提供することもあります。
投資顧問は、個人投資家や機関投資家にとって重要なパートナーであり、資産運用の専門家としての役割を果たしています。ただし、投資顧問を選ぶ際には注意が必要であり、信頼性や実績、料金構造などを慎重に評価する必要があります。